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医食同源

ドイツで驚いたことの一つに、「医食同源」の世界が存在しているということがある。
ドイツのパン職人たちは、自分たちの作っているものが何よりも健康に良いということを自覚している。それは私にとってとても嬉しいことであった。ライ麦や全粒粉、種子を食すということは、体にとても良いのだと熱心に教えてくれた。もちろん私は独自に勉強していたので知ってはいたが、いつもふざけてばかりいる同僚たちが、その時ばかりは真剣な眼差しで語ってくるのだ。その目がとても嬉しくて、私は「知っているよ。」なんて言わず「なるほど、なるほど。」と頷いた。
「日本にはライ麦はあるか?全粒粉はあるか?種を混ぜ込んだパンはあるか?」
と聞いてくる。
「あるにはあるけど、そんなにポピュラーではない。ほとんどがふわふわのパン。日本ではパンはどちらかというとおやつに近い食べ物だ。」
というと
「よし。お前がライ麦や全粒粉や、種子の入ったドイツパンを日本に広めるんだ。」
という。自分自身がやりたいと思っていることを、こちらが何も言わないのに理解してくれているのだと思うと俄然やる気がわいてくる。
 私は初め、1年間の期限付きでドイツのパン屋に住み込みで修業させてもらっていたのだが、その期限が近づくと同僚たちが
「ここが終わったらどうするのだ。」
と聞いてくるので
「次はちょっとフランスに行ってみる。」
と言った。
フランスとドイツはライン川を挟んである。私がいたフライブルグという町は、フランスまで公共交通機関を使って1時間くらいで行ける所に位置する。だから週末などたまに友人たちを誘いフランスに遊びに行っていた。そこで興味が出てきたというか、欲が出てきたというかフランスのパン屋でも修業してみたいと思いだしたのだ。
 そのことをドイツのパン職人たちに言うと、しかめ面をして
「フランスのパンは、白いパンだぞ。白いパンなんて健康じゃない!俺たちのパンは、健康に良いんだ。わかっているのか!」
と言ってくる。こんなにも自分たちの作っているものに対して誇りを持っていることに驚きと喜びを覚えた。
 ドイツ人は、健康というものが口にするものから作られているということを認識している。友人が、頭痛がするので日本から持ってきた市販の頭痛薬を飲もうとしていると、すごい剣幕で止められたという。
「あなたはなにをやっているの。そんなもの飲むもんじゃありません。頭が痛いのならお茶を飲みなさい。あなたは日本人でしょ。お茶は日本の文化じゃないの!」
ドイツでは病院でもあまり薬を出してくれない。私も一度ひどい腹痛と嘔吐に見舞われたときに、病院に行ったのだが薬の一つも出してくれなかった。たぶん前の日、湖で泳いだときに、少し湖の水を飲んだのが原因だと思われる。
先生はこの苦しみを理解してくれてないんだと思い、
「先生、本当に辛いんです。」
と再度言っても
「大丈夫、私に任せなさい。」
と言って3日間の食事の献立メニューを渡されただけであった。マッシュポテトやら煮豆やら、ビスケット3枚といったものの中に、毎食カモミールティーがある。お茶で治せというのだ。毎食毎食カモミールティーを飲んでいると、不思議なもので(あるいは当然のことなのかもしれない)、トイレに行くと尿さえもカモミールティーの香りがしてくる。結果、薬は飲まないで回復した。病気になればお茶を飲めというのが、ドイツ人の考え方だ。確かにドイツのドラッグストアには、お茶の棚が広くとられてあり、紅茶から、ハーブティー、フルーツティー、ルイボスティー、緑茶まで様々な種類のお茶がある。
 もう一つ健康というものがドイツの生活の中に意識されてあるということに、くしゃみをした際に「ゲズンドハイ!」と言われる、ということがある。ドイツ旅行の際に、くしゃみをしたら、周りにいるドイツ人に何か言われたという経験を持つ人はいないだろうか。
そんな時は「ダンケ」と言っておけばよい。
「ゲズンドハイ」とは「健康」という意味である。辞書では「お大事に」と訳されているが、私はそのまま「健康」でいいと思う。これはおまじないのようなものではないだろうか?誰かがくしゃみをすれば、知り合いでもそうでなくても、周りが「健康!」と唱える。それが一つの文化としてある。ぜひ真似をしたい文化の一つである。