ドイツパンというと、皆はどのような印象を持っておられるだろうか?
ここで私の言うドイツパンとは、大きなこげ茶色をした、ずんぐりとした形のパンである。ハイジに出てくるようなパンといえば、想像しやすいだろうか?ドイツ語でブロート(Brot)と呼ばれるパンのことである。
たいていの人は、ドイツパンというと「酸っぱい」とか「堅い」という印象をお持ちではないだろうか?この印象の原因は「ライ麦」にある。ライ麦はドイツの寒い土地でも育つという理由で、昔から栽培されてきた。そのためドイツではライ麦パンが主流となったのである。確かにライ麦100%で作ったパンは、くせがあり、酸っぱいや、堅いといったものであるといえるだろう。しかし何もライ麦100%のパンばかりではないのだ。
ライ麦0%のヴァイスブロート(白いパン)、ライ麦10%~40%の、ヴァイツェンミッシュブロート(小麦の混ざったパン)、ライ麦50%~80%のロッゲンミッシュブロート(ライ麦の混ざったパン)、ライ麦90%~100%のロッゲンブロート(ライ麦パン)といったように、ライ麦の配合によって、様々な味や食感が楽しめる。ドイツ人でも(特に若者が)ライ麦100%のパンは「くさい」と言って、怪訝な顔をする人もいるのである。日本でいう納豆や奈良漬のように、味に特徴のあるものは(あるいは、あり過ぎるもの)、万人受けはしないものである。
私が、ドイツパンを作れるようになりたいと、心に思ったきっかけは、専門学校時代に行ったフランス・ドイツの一ヵ月研修でのときである。フランスでのパン学校での印象は日本とあまり変わらないという印象しかない。それは日本のパン文化がフランス人によって作られたからに他ならないだろう。
そのあとドイツに渡り、そこに目にしたものは、今まで見たことのない大きなパン、こげ茶色のパン、今まで感じたことのない香り、今まで食べたことのない味、すべてにおいて感動し、そのドイツパンの渋さに憧れにも似た感情を抱いてしまったのである。
このパンが、焼きたい。このパンを焼けるようになりたい。こんなパンを焼いている自分はきっとかっこいいと思ったのである。
それからドイツパンについて、少しずつ勉強するようになり、そして勉強すればするほど、ドイツパンというのは良いこと尽くめなのだと認識するようになった。
まず、ライ麦は食物繊維が豊富であること。ミネラルが豊富であること。ビタミンB群が豊 富であること。
それから、全粒粉という麦を丸ごと挽いたものを使用しているという点も見逃せない。これは、ライ麦でも小麦でも同じことなのだが、全粒粉とは、全部の粒を粉にしたものである。家庭でも使われることの多い白い粉は外皮と胚芽を取り除き、真ん中の胚乳という部分のみを挽いて粉にしたものである。この外皮と胚芽に栄養分が豊富に含まれているのだが、小麦の胚乳の部分には栄養価はほとんどない。麦の栄養価を余すことなく全部いただこうというのが全粒粉なのである。
ではなぜ、胚乳のみを挽いた白い粉を好んで食しているかというと、答えは簡単、食べやすいからである。外皮や胚芽が入ると、どうしても食感がモソモソした感じになってしまう。しっかり噛まなければならないなどという理由で嫌遠されてしまう。しかしここで私たちが認識になければならないのは、白い粉は栄養価がほとんどないという事実である。炭水化物としての役目しか果たしていないのである。
それからもう一つ。ドイツパンは種子を使ったパンが多いことも特徴の一つである。胡麻はもちろん、かぼちゃの種やヒマワリの種、ケシの実に、亜麻の実、きび、押し麦もよく使う。こういった種を食べるという行為は、植物の力の源を頂くといったイメージが強い。
このようにドイツパンは、非常に栄養価の高い食べ物であるということがわかってくる。それに、私自身は、ドイツパンが酸っぱいとか、堅いなどとはあまり思わない。ライ麦のパンが酸っぱいというのは、ドイツの製法で作ってないのではないだろうか?
ドイツは、先にも述べたように、ライ麦の収穫が盛んであった。ゆえにライ麦パンをいかにおいしく作ることが出来るのかと試行錯誤されてきた。
その答えがザワータイグと呼ばれるライ麦の天然酵母である。このザワータイグを使ってライ麦パンを作ると、ライ麦の酸味が非常にまろやかに柔らかくなるのだ。私のパンを食べてくれた人の中には、ドイツパンのイメージが全然違って、とても美味しいと言ってくれたり、これは日本人向けにアレンジしているのですかと言われたりするが、ほとんどドイツのオリジナルである。
日本人の持っている間違ったドイツパンのイメージ(いったいどこでそのようなイメージがついたのだろう?)を正しい方向に持っていきたい。
そしてドイツパンは、健康パンであるということを知ってもらいたい。