「つまんないね。」
この言葉が、私に目標をくれた言葉、あるいは使命感を持たせてくれた言葉である。
ドイツのミュンスターにある語学学校に通っていた時のこと、私はある家族の元でホームステイをしていた。
そこで出された朝食に、私はとても感動した。テーブルの上には、ハムに、チーズ。それにゆで卵に、きゅうりにトマト。ジャムがイチゴのジャムと、リンゴのジャムの2種類とはちみつ。そしてチョコバター。冷蔵庫の中から、次々に出してきて、テーブルの上がいっぱいになる。もちろんドイツパンも。
1センチ位にスライスされたドイツパンにバターをさっと塗り、好きな具材を乗っけて食べるのがドイツ流だ。チーズときゅうりを乗っけてパクリ。次は、トマトとハムを乗っけてパクリ。次は甘系のジャムを乗っけてパクリ。だんだん楽しくなってくる。
「すごくたくさんあるね。」とテーブルの上を見ながら言うと、これがドイツの朝食スタイルだとぺトラ(お母さん)が教えてくれる。一日を始まりだからしっかり食べなければならないと。
「日本にもパンはあるの?」
と聞いてくるので、日本の典型的なお米を使った朝食もあるけど、もちろんパンもあるよと答えると、どのようにパンを食べるのかを聞いてくる。
私は一瞬言葉に窮してしまった。何しろ私の朝のパン食のスタイルは、コーヒーと食パン一枚をかじるだけの、かなり質素なものなのだ。戸惑いながら、正直に答えると、少し顔をしかめ、
「それだけ?」
というので、
「いや、、、ジャムがあれば、ジャムを塗って食べたり、、、あっ、あとバナナがあればバナナも食べるんだけど、、、。」
「ふ~ん、つまんないね。」
ショックだった。飽くまで当時の私の個人的な朝食のスタイルなのだが、少なからずドイツ人の一家族に、日本の朝食はつまらないものだと印象付けてしまった。この時彼女が発したドイツ語は「ラングバイリヒ」、直訳で「退屈」という訳になるが、私は頭の中で瞬時に、(彼女の顔がそう言っていたのもあるが)「つまらない」と訳したのだ。
この時こそ、これはいけない。これではいけない。このドイツの朝食スタイルを、ドイツの食文化を日本のパン食にも浸透しなければならないと思い、いちパン職人としての使命感を持った瞬間であった。
「ドイツパンで日本の朝食を楽しく豊かにしよう!」
私は、このコンセプトをもとに日々パン造りに取り組んでいる。